トロンビン阻害薬
Thrombin-Inhibitors

Neal S. Kleiman
Baylor College of Medicine
Houston, TX, USA


トロンビンは血栓の形成と凝固を司る。トロンビンは最も強力な血小板の生物学的活性化物質であり、細胞の遊走、血管上皮の活性化、凝塊の安定化に関与する。

トロンビン阻害薬はトロンビンのクリスタリン構造が明らかになったことによって開発された。トロンビン阻害薬はトロンビン分子の特定の部位(活性部位、フィブリノーゲン外表面、およびヘパリン結合部位)に作用する。活性部位は分子内のポケット部位にあり、ほとんどの蛋白融解活性に関係する。フィブリノーゲン外表面は血小板を活性化させる。この部位は同時に基質を繋ぎとめて活性部位の作用を受けやすくする。ヘパリン結合部位はトロンビン分子にヘパリンが結合する部位である。

ヘパリンはしばしば抗凝固薬として用いられるが、生物活性が一定しない、トロンビンのフィブリンに対する親和性を増加させる、血小板の凝集を刺激するなどいくつかの問題点をもつ。そのためにトロンビン阻害薬のような代用薬が開発された。

トロンビン阻害薬には1価と2価の2つのクラスがある。1価の阻害薬は小さな分子で活性部位にアクセスしてくる基質をブロックする。このクラスを代表する薬物はアルガトロバンである。

2価の阻害薬はより大きな分子でN末端が活性部位に被さり、C末端が外表面に被さっている。そのため、2価の阻害薬によって、この2つの部位へのアクセスが阻止される。Herudinはプロトタイプの2価阻害薬である。この阻害薬は最も強力で、親和性も最も高い。

トロンビン阻害薬の利点は、生物学的効果が予測でき、抗凝固反応が予測でき、催凝固作用が知られておらず、リバウンドがなく、より効率よく一定して血栓内に浸透していくことにある。

臨床試験ではherudinに関して大出血などの安全性に関する懸念と治療域が狭いことが問題にされた。それに対して、1価の化合物では急性虚血イベントが少なく、出血の合併症も減少した。以上の結果から、Kleiman博士は1価の化合物はヘパリンより安全であると結論した。線維素溶解薬とトロンビン阻害薬の併用による血栓溶解療法の有効性はいまだ証明されておらず、薦められない。