循環器学は今まさに最も輝かしい時代を迎えようとしている。1900年における米国女性の平均寿命は36歳であったが、今では2倍に達した。この値は、次の100年でさらに2倍になることが期待される。しかし、もしそうなったら160歳まで働くことになり、心血管系の健康維持にさらに努力が必要となる。
現在、世界中でみられるすべての死亡の80%は、20の疾患によるもので、これらの疾患の原因には約300の遺伝子が関係する。今進行中の遺伝学の研究はこれらすべての遺伝子の機能を識別することを可能にするもので、患者の診断や治療の成績を大きく改善することは明らかである。例えば、最近の10年間で肥大型心筋症に関係して数種の遺伝子異常が明らかにされた。これらの疾患を有する患者の治療にまだ遺伝子治療を用いることはできないが、特異的な遺伝子異常の解明によって、最近では予後の洞察が確実になった。
すでに50以上の微生物ですべての遺伝子が解明されているが、まもなくラットやマウスの遺伝子配列も解明されるであろう。いま、遺伝子ライブラリーには110億のDNAシークエンスが登録されている。ヒトの遺伝子を研究する時には、このライブラリーで同一のDNAシークエンスを探せばよい。もし、それがみつかり、微生物においてその遺伝子の機能がわかれば、ヒトにおいてもその遺伝子は同じ機能をもつと推測される。
ヒトの病気に関係することが知られている約1,000の遺伝子の中で、14,000の既知の変異を含めて、18%が心筋症、中隔欠損、大動脈瘤、刺激伝導障害、および不整脈などの心血管系疾患に関するものである。理想的には、この情報はきわめて興味ある方向に利用できる。正常の細胞の複製によって、誰でも心臓は3週ごとに全く新しくなっている。ほとんどの細胞は2〜3日ごとにターンオーバーしているが、石灰化や線維化が起こると、このターンオーバーは17日を要するようになる。各々の細胞はそれぞれの遺伝子のコピーを2つもっているが、必要なのは1つだけである。将来、遺伝子異常による心血管系の疾患を有する患者に対して、異常な遺伝子だけをノックアウトすることができるようになれば、数日で正常遺伝子が複製されて患者は完全に新しい心臓を手に入れることができるようになるであろう。
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